一般社団法人 WebDINO Japan (代表理事: 瀧田 佐登子/所在地:東京都中央区) は、インターネット通信の 6 割を占める動画配信の実利用時の品質データを分析・公開し、ネットワーク資源の有効活用と品質向上に役立てる調査研究プロジェクト「Web VideoMark (ウェブ・ビデオマーク)」を 2 月 5 日より開始します。
また、本プロジェクトに協力いただける動画視聴ユーザー向けのツールとして、デスクトップブラウザー用拡張機能と Android 端末向けブラウザーアプリをそれぞれ配布します。
背景
インターネットの通信量は拡大の一途を辿っていますが、現在、その 58% が動画配信に利用されており 1、今後もその割合は拡大すると予測されています。一方、インターネット通信へのニーズも大容量を求めるものだけでなく、自動運転車の遠隔運転のように低遅延を求めるもの、災害時通信など高信頼性を求めるものなど、用途に応じた制御が必要となります。
特に、第 5 世代モバイルシステム (5G) 環境下では、通信用途毎に独立な資源を割り当て制御するネットワークスライシングが標準仕様にも含まれ、プロバイダーやキャリアによるネットワークの動的制御の重要性が高まっています 2。
本プロジェクトでは、ネットワーク帯域の有効利用やサービス品質改善に役立つ基礎調査データとして、動画の視聴体感に影響する「品質パラメーター」を取得し、ユーザー体感品質を測定します。この測定結果の活用により、プロバイダーやキャリアは実サービスでの体感品質に基づいたネットワーク設備の増強や制御が可能となり、動画配信事業社はユーザーの体感品質を的確に把握して動画配信ネットワークと制御を改善可能となります。結果として、通信品質が安定しないネットワークでもユーザー満足度が下がらない、また、バッテリー消費や通信料の削減に繋がるなどユーザーメリット向上に貢献することを目指します。
プロジェクトの概要
本プロジェクトでは、実際の動画配信サービス利用時の体感品質値を客観的に推定し、共有・比較できるツール (PC 用ブラウザー拡張機能「Web VideoMark」、Android 向けブラウザーアプリ「VideoMark Browser」) を配布し、一般ユーザーから調査の協力者を募ります。
これまで、利用者自身によるネットワーク品質の確認・比較には、単純な転送速度計測 (スピードテスト) が一般的でしたが、実際のインターネットではサービス毎に端末やアプリケーションなどに応じた通信最適化や帯域制限が行われており、スピードテストのような単純なベンチマークでは、実際のサービス利用時の品質が評価できませんでした。Web VideoMark 利用下では、映像のビットレート・解像度・フレームレートなどの品質パラメーターを取得し、動画再生の体感品質を客観的な推定により計算した結果を数値として表示します。測定した動画視聴時の品質パラメーターは、匿名の基礎調査データとして弊社サーバーに送信され、都道府県、曜日や時間帯毎に集計し公開されます。測定に協力する利用者は、自身の環境での測定結果と集計された公開データとの比較も可能となります。
Web VideoMark の実装には、NTT コミュニケーションズ株式会社がオープンソースとして公開するソフトウェア 3 を基に、WebDINO Japan が機能の追加や改良を加えています。また、動画サービス利用時の品質推定ロジックも同じく NTT コミュニケーションズ株式会社により提供されており、日本電信電話株式会社ネットワーク基盤技術研究所が開発した視聴状況可視化技術とサービス品質評価技術を用いて、効率的にデータを収集・処理して客観的動画再生の体感推定品質値の計算を実現しています。
Web VideoMark を通じ、2019 年 3 月末までに収集された動画サービス視聴時のデータは、日本電信電話株式会社および NTTコミュニケーションズ株式会社と共に調査分析され、その結果は匿名ログデータと共に公開します。
なお、現時点で品質の評価・比較が可能な動画サービスは、YouTube、Paravi、TVer の 3 サービスですが、今後、対象とするサービスの拡大を目指します。
NTT コミュニケーションズ株式会社からのコメント
同社 技術開発部 担当部長 亀井聡 氏
NTT コミュニケーションズではインターネットへの各種接続サービスを提供しています。今回、オープンなウェブの発展に貢献してきた WebDINO Japan との協力により、さらなるインターネットの発展に向けた基礎データを取得し、高品質なサービスの提供に活かしていきます。
情報処理学会 インターネットと運用技術 (IOT) 研究会からのコメント
同研究会 主査 宮下健輔 氏 (京都女子大学)
IOT 研究会では、大学やサービスプロバイダー、機器ベンダなどの研究者がインターネットに関する研究成果を発表し情報交換する研究会を定期的に開催しています。今回の WebDINO Japan の取り組みによって得られたデータを活用することで、サービス提供に関わる各分野の研究が一層深化し、より快適なインターネット環境の構築・運用やそれに向けた提言に結びつくと期待しています。
電子情報通信学会 コミュニケーションクオリティ (CQ) 研究会からのコメント
同研究会 委員長 林 孝典 氏 (広島工業大学)
CQ 研究会では、ネットワーク/アプリケーション品質 (QoS) に加え、それを利用するユーザーが体感する品質 (QoE) までを対象とした品質評価・計測技術を主要研究分野の1つとして、多くの研究者が定期的に議論しています。
これまでのインターネットの品質測定は、速度測定のようにネットワークの話が中心でしたが、今回の取り組みはユーザーの協力のもと、アプリケーションレベルの品質を測定対象としている点で有益です。取得されるデータにより、ユーザー視点からあるべきネットワークの設計・管理・制御論について当学会で議論できることを期待しています。
また、協力ユーザーが本取り組みに一方的に協力するだけではなく、協力ユーザー自身が得られるメリットについて明確にしていくことで、ネットワーク事業者・サービス事業者・ユーザーが連携し、共に快適な品質の通信環境を創造していく世界 (当研究会ではこれを “共創品質” と呼んでいます) が描けるのではないかと、大いに注目しています。
関連 URL
-
Web VideoMark プロジェクトサイト
-
PC 用ブラウザー拡張機能「Web VideoMark」
-
Android 向けブラウザー「VideoMark Browser」
WebDINO Japan (ウェブディノ・ジャパン) について
一般社団法人 WebDINO Japan は、オープンウェブプラットフォームの領域拡大とウェブ技術による相互接続環境の社会実装を通じて、インターネットの環境基盤に貢献することを目的とした非営利法人です。
2004 年の設立以来、10 年以上にわたりコミュニティと共にオープンソースのウェブブラウザー製品の普及活動やウェブ標準技術の推進などを行ってきた経験から、現在は、産学官、そしてコミュニティの人々をつなぎ、ウェブを介したコラボレーションやイノベーションを促進する活動を行っています。
2017 年 7 月からは組織名を旧社名から一般社団法人 WebDINO Japan へと改め、ブラウザーやウェブ技術の導入支援や実装、コンサルティングを中心に、ウェブやオープンソースに関する普及活動、研究・教育活動にも取り組んでいます。
組織の沿革:https://www.webdino.org/about/history/
-
Sandvine 社による調査「2018 Global Internet Phenomena」によると世界のインターネット通信量の 57.69% が動画サービスによるものです ↩︎
-
ネットワークスライシングを含む、ネットワーク通信技術の動向については総務省特別委員会資料資料「2030年の情報通信基盤に向けて」(PDF) などをご覧ください ↩︎
-
動画視聴の際のネットワーク通信品質や動画の品質パラメーターを取得し、動画再生の体感品質値を客観的な推定値として計算した結果を数値として表示するソフトウェアです。詳しくは GitHub のプロジェクトページ をご覧ください ↩︎